今でもおまえが怖いんだ
「牛タンが美味しいとか聞いていたけどさ、牛タンなんてどこで食べたって美味しいに決まってるじゃんね」

違いの分からない男のテンプレートみたいなことを言いながら、宗徳さんはかもめの玉子の包装紙をはがして食べ始める。
1つどうぞ、と差し出されて私も受け取った玉子の包装紙をはがした。

もぐもぐと食べながら「そちらは」と聞かれる。

「お仕事、順調?」
「うーん、順調?」

同じように聞き返してしまう私に知らねえよと彼はまた明るく声をあげて笑った。

「出て行かれた理由って、仕事じゃないの」
2つ目を食べながら言われて、私は首を横へブンブンと振る。

「違う違う。元々私の方から結構前に振っていたんだけれど、知人として部屋に通ってくれていたんだよずっと。私がこういう人間だから、定期的に会ってご飯連れ出してくれたりとか」

なんだそれーと彼はソファに靠れてニヤニヤとしたままだ。

「めっちゃ良い奴じゃん。自分のことフッてきた元カノの面倒その後も見てやるとか。責任能力がちゃんとある。さすが高いサンダル履いている男は格が違うね」

シュプリームのサンダルが余程ツボに入ったらしい。
正直私もあのサンダルを見た時はどんな顔して買ったんだろうこの人と本気で首をひねってしまっていた。
< 30 / 78 >

この作品をシェア

pagetop