今でもおまえが怖いんだ
青山さんがお店の奥でお仕事を片付けている間、私は本店の小動物コーナーでハムスターたちを眺めていた。

プディングカラーの子たちの水槽には「調整中」の札が貼られていて、今にも壊れそうなくらい小さなハムスターたちが身を寄せ合って眠っていた。
その横の長毛ハムスターのブロークン柄は私の好みの顔立ちで、生年月日とか詳細が書かれたカードを確認してしまった。

ジッと眺めていた私に「気になる子いたらおだしできますよー」と本店のスタッフさんが声をかけてくれる。
ありがとうございますと振り返ると、彼女は「あ、青山さんの!」と表情を明るくさせた。

「彼女さんでしたよね」

先程と同じ繰り返しにいえいえいえと首を横へ振ると、「有名ですよ、あの青山さんですから」と彼女はそれをさらに打ち消すように話を被せてくる。

あの……と言われてふと本店の社員さんたちと話している青山さんに目を向ける。

相変わらず眠そうな表情だけれど、普段の猫背からは想像ができないくらいピンと伸びた背筋からは育ちの良さがうかがえないこともなかった。

「いつかはご実家継いじゃうんですかね。あの姿を拝めるのも今のうちなのかなあ」

私もスタッフさんと一緒に首を傾げた。
彼の今後のことは一切聞いていなかった。

ここ数年の付き合いで、錦鯉の専門店を営んでいる裕福な家庭だと知った。
互いの実家が古くから交流を持っていることも偶然知ることができた。

けれど、まだあまり突っ込んだ話はできていない。なんだか厭らしい意味に捉えられたくはなかった。
< 43 / 78 >

この作品をシェア

pagetop