今でもおまえが怖いんだ
帰りの車の中で、窓に頬杖をついて眠りかけていた私に、青山さんが「ねえ」と声をかけてきた。
「俺、今日は19時上がりなんだけれど。部屋に送って行く前に夕飯一緒に行こうよ」

間延びした口調のままで、欠伸混じりに彼はそう言った。

「姿勢正してたらお腹空いちゃった。透子さんが好きなもの食べに行こう」

お肉、ラーメン、中華。
頭の中をぐるぐると色んな食べ物が回って、でもどれも青山さんの前で食べるには恥ずかしいものばかりで、私はしばらく黙りこんでしまった。

「そっか、名古屋のお店あまり知らない可能性を考えていなかった」

私の沈黙に気を遣って青山さんはハッとしたような素振りを見せてくれた。
多分、彼なりのおどけた演技なのだろうけれど、それが妙に似合ってしまっていて、私も気を遣わせてしまった罪悪感を抱かずに済む。

「この前、本店の人たちと行ったお店で良いかな。大衆食堂って感じなんだけれど、一応そこそこ綺麗な感じにはしてある。椅子は固いけれど」

大丈夫そう? と聞かれて、私はコクコクと頷く。

「地味に美味しくて、あそこの串カツもう1回食べたかったんだ」

青山さんは咥え煙草のままでふーっと細く煙を吐いて、それから少し上機嫌なのか笑って見せたりもした。
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