今でもおまえが怖いんだ
スーッと吐き出される細い煙はほとんど匂いがしなくて、私も就職活動の時によく吸っていた。

ヴァージニア・エス・ノワール。派手な外箱が目を引く煙草だ。

元カノが好きだったんだよね、と出会った頃に標門さんが言っていた。

その元カノの話は彼の口からたまに聞く。
今までの人生で付き合った人数が１人というわけでもないだろうに、彼が語る元カノは必ず１人だけだった。

麻美ちゃん、という名前の女の子。

「ヒョロガリで、左手首にびっしりと自傷痕があって、ヴァージニアを吸っていて、読書と映画とカメラが趣味の格好良い女の子だった」

どこかの喫茶店でフジファブリックの茜色の夕がかかっていた時、彼が話してくれた。

麻美ちゃんはぼくにとって忘れられない女の子なんだよねと話す彼は珍しく目を細めて笑っていた。
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