今でもおまえが怖いんだ
バックだけは嫌だと出会った頃に私が言った。
だから有馬君とは正常位か騎乗位が多い。

私が対面座位を好むことを有馬君は覚えていてくれるから、たまにだけれどそれがある。
固く引き締まった男らしい腕に抱き締められるととても安心することができた。

安心と同時に、男性に抱かれているのだという緊張だとか悦びだとかそういうものも一緒に押し寄せてきて、私が彼に対して抱いている感情を錯覚してしまう。

「ヤバい、気持ちいい」

吐息混じりにそう言って、有馬君は私の肩に顔を埋めてくれる。
彼の背中に添えた手でゴツゴツと浮き出る背骨を撫でている。
もう片手で猫っ毛を撫でてみる。
荒い呼吸が耳のすぐそばで聞こえてくるから、私もぞくっと背筋が伸びる。

そうしているうちに気付く。

かつては事務的だったこの行為にだんだんと言葉が生まれ、本能が露呈し、本性が見え隠れしながら意味を持ちだしているのだと。

黙々と行われ続けていた、休憩なんてけしてなかった。

名前を呼び合うこともなかったし、気持ちいいかなんて聞かれずに体位も変わらずただ馬乗りになられるだけのあの行為が、いつからこうなっていたんだっけ。

「あ、もうイく」
一言そう断ってから彼がイくようになったのは、いつ頃からだっけ。
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