明日キミに聴かせたい

昼過ぎ、また私は玄関に立ち、ゆっくりとドアを開けて廊下に出た。

誰も通らないマンションの廊下には、冷たい風が吹き込んで私の髪を乱した。


「はぁ…はぁ…」


行くのは学校じゃない。
行くのは学校じゃない。
行くのは学校じゃない。

そこのエレベーターまで。
そこのエレベーターまで。
そこのエレベーターまで。


10歩に満たない距離が、とてつもなく長くて、足が重く、何度も立ち止まっては深呼吸を繰り返しながら私はエレベーターの前で立ち止まった。


「行ける…大丈夫だ…」


そのままエレベーターに乗り、マンションの玄関口まで進んだ私は、一歩。決して大きくはない。けれど私にとってはかなりの一歩を踏み出してマンションを出た。

建物に当たらずにビュン!と私の頬をすり抜けた風は、廊下で私の髪を乱したのと同じように冷たく強かったけれど、私はその風を受けながら誰も通っていない道の先を見ながら涙が溢れそうになった。


幼稚園の時も、小学校の時も、中学校の時も、ここからなんの怖さもなく登園も登校もして、帰ってきたはずなのに、どうして今はここから先が見えなくて私はこんなにも怖いのだろう……

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