リングサイドブルー
「あの、心暖ちゃんのお父さんですか?」
「はい」
 千晃は振り返った。

「心暖ちゃんがうちの拓斗とたくさん遊んでくれたみたいで」

 ありがとうございました、これからもよろしくお願いします、と男の子の手を引いた三十代半ばくらいの母親が親しげなようすで笑いかけてきた。話を聞けばどうやらこの女性の息子はステラ保育園に入園したばかりのようだ。

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

千晃は仕事中とは打って変わった、丁寧な物腰で返した。心暖の手が離れると、千晃は膝を折って拓斗と視線を合わせた。

「心暖をよろしくね」

 微笑みかけると小さな頭がゆっくりと上下する。千晃はそれを見届けてから、ありがとう、と立ち上がった。

 会社では仕事を定時で切り上げる、開発にも回せない使えない若造でも構わないが、保育園はそうはいかない。自分の印象がそのまま子供の印象に直結する。
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