リングサイドブルー
「心暖、まだ寝ないの?」
「ねなーい」
 千晃のひざの上に頭を乗せて、心暖は絵本を眺めている。

「ほんとは眠いんじゃないの」
「まだねむくないよ」
 そう言い返す心暖の瞼は今にもくっつきそうだ。

 千晃は絵本を覗きこんだ。母親と一緒に図書館で借りてきたというその絵本は、うさぎの家族の物語だ。石造りの家、木のテーブルの上には出来立ての食事が並び、夕飯の時間を一家で共有している。

 絵本のやさしい世界は、時に残酷だ。母親がいて、父親がいて当たり前のように一緒に食事をする家庭を『普通』として描くから。

「心暖。今日保育園おやつなに食べたの」
「どーなつ。ふわふわだったよ」

「へえ。じゃあこの絵本のうさぎさんと一緒だったんだね。おいしかった?」
「んー」
 保育園の話をしたくないのか、声が曇る。
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