さざなみの声


「寧々ちゃん、ごめんね。遅くなったわね。お疲れさま」

「いいえ、お疲れさまです。じゃあ失礼します」

 ロッカーの前で着替えていたらメールが。啓祐からだった。

『514に部屋を取った。待ってる』

 携帯の啓祐のフォルダーには、ずらっと部屋番号の入ったメール。今夜は約束はしてなかった。さっき店に来る用が出来たから……。

 こんなこと続けていてもいいんだろうか? 

 来月誕生日が来たら私は二十五歳になる。仕事は夢も叶わずアルバイト。将来に何も見えて来ない恋愛。何もかもが中途半端で自分が嫌になる。

 啓祐は、どう考えているのだろうか?

 違う。そうじゃない。あの日私は……啓祐の胸に自分から飛び込んだ。啓祐の腕に自ら堕ちた。やさしくされることが心地好かった。大切にされていると信じていた。愛されていることを疑わなかった。

 啓祐の腕の中が私のすべてだった。愛される悦びを教えられた。心も体も……。私のどこを切り刻んでも啓祐しか居なかった。

 もしも許されるのなら誰にも邪魔されずに啓祐と二人だけで生きていきたい。心も体も私だけのものにしたかった。それほど愛していた。愛されたかった。

 でも家庭を壊して欲しいなんて望まなかった。お嬢さんにとって父親は彼だけ。奥さまとは、もう男と女ではないと言っていた。そうであって欲しいと願っていた。いろんな想いが心の中で妖しく渦を巻いている。
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