さざなみの声


 それでも私は啓祐からのメールに自分が熱くなっているのが分かる。啓祐の待つホテルの部屋に着く頃には彼の腕の中で何もかも忘れて乱されている私が見えていた。

 ドアを開けて迎えてくれる啓祐は、いつもの優しい笑顔。すぐに私を思いっきり抱きしめてくれる。

「外は寒かっただろう。こんなに冷えて。温めてあげるよ」

 啓祐にコートから最後の一枚まで簡単に脱がされ熱いシャワーで冷え切った体を温められていた。私を壊れ物のように丁寧に扱ってくれる。その心地好さは私の中のどこにあるのか分からない、いつもは意識さえしていない奥深い隠された秘密を溢れさせて私が押し流されそうになる。

 体に残る水分をバスタオルで包んで、そっと拭いてくれる。そしてベッドに沈められる頃には私はもう啓祐以外のことは何も考えられなくなっている。啓祐に囁かれる言葉と与えられる悦びを受け止めるだけ。思考回路は麻痺し他の考えなど何も浮かばない。ただ啓祐の体温を熱さを激しさを優しさを感じるだけ。遠くなっていく意識の中で啓祐の好ましい香りだけが残る。真っ白な世界に辿り着かされて、そのまま記憶の糸が途切れる。

 どれくらいの時間を彷徨っていたのかも分からない。目を開けると、これ以上ないくらいの優しいキスで感覚が蘇る。

 啓祐を愛してる。啓祐からも愛されている。確かな想いとなって、すべての感情が愛だけに支配される。もう他に何も要らない。私たちは初めから愛し合うために生まれてきた。そう思いたい。このひとときだけでも……。それが洗脳でも錯覚でも。今は大き過ぎるほどの感情の昂ぶりに支配されたままで。

「寧々、愛してる。こんなに愛せるなんて思っていなかったよ」

「啓祐、啓祐のいない世界なんて考えられない」

 私を繋ぎ止めていて欲しい。離さないでいて欲しい。虚しい願いだと知りつつも、もしかしたらと奇跡を願う。
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