箱入り娘に、SPを。
「三上くん、君は最近警視庁に来たそうだね。その前はどこに?」
尋問をしているわけではないが、妙に威圧的な父の聞き方。
よく私に「帰りが遅い。どこで何をしていた?」と問い詰めてくる時と同じ。これ聞かれる方はすごい嫌な気持ちになるからやめてって言ってるのに。
本人には悪気がないから、困るところ。
尋問という名の質問を受けている彼は、答えに詰まることなくすらすらと答える。
「世田谷警察署におりました。先月から異動してきたばかりであまり慣れておりませんが、今日はたまたまマトリでクラブの摘発があるから人手が欲しいということで─────」
「なるほど、偶然居合わせたわけだ」
「はい」
重苦しい雰囲気によく耐えられるな、と私は横目で隣に座る彼を見やる。
背筋をただし、相変わらず緊張した面持ちでいる。
「…で、どうしてうちの娘だと分かった?」
父の核心に触れるような問いかけに、彼は間を置くことなくすぐに口を開いた。
「一昨年の警視総監就任式典に参加しておりましたので、その時に娘さんをお見かけして、ご挨拶と少しばかり会話を…」
「え?」
聞き返したのは、父ではなく私の方。
話したことがあったの?私は勝手に初対面だとばかり思っていた。
彼は私の方は見ずに、ひたすら父の鋭い視線を全身に浴び続けている。
その父はというと、ピクリと眉を上げて「どういうことだ?」と身を乗り出した。
「会話を交わしただと?あの場で?どんな?」
「えっ、いや、あの」
明らかに様子が変わった警視総監の姿にたじろいだ彼は、やっとのことで視線をそらしてなんとか答えを絞り出した。
「同じ捜査一課の恒松浩をご存知ではないでしょうか?恒松は自分の上司でして、世田谷警察署でもお世話になり、先月一緒にこちらへ異動になって…」
言い終わるか終わらないかのうちに、父の目が輝いた。
「なーんだ!ツネの部下か!!」
「あっ……、はい」
呆気に取られながらもうなずく彼の横で、私までもが久しぶりに聞く恒松浩さんの名前に声を上げてしまった。
「ツネさん!お元気ですか?」
「は、はい!相変わらず干し芋を常備しています」
彼の返事が面白すぎて、私も父も思わず吹き出す。