箱入り娘に、SPを。
彼が言っている「恒松浩」さんは、父の古くからの友人であり、ノンキャリアながらもマイペースで着実な捜査方法をとる人だ。
父とは大学が同じで、苦楽を共にしたらしい。
今でもプライベートでは親交があり、私もツネさんと呼んで親しんでいる人だった。
「なるほど。ツネの部下だから連れられて式典に来たってわけか!」
「はい、その時に懇意にしているからということで、ご家族の皆様とご挨拶をさせていただきました」
父と彼の会話を聞きながら、それでも一切思い出せない彼の姿に少し申し訳ない気持ちにもなった。
だけど、父の仕事の立場上たくさんの人と挨拶を交わすので、ひとりひとり覚えていられないというのが本音だ。
「三上くん、捜査一課と言ったな」
「はい、そうです」
確認するような父の語りかけにうなずいた彼は、その後の父の「よし、じゃあいいだろう」という謎のつぶやきに首をかしげていた。
またしても炸裂しそうな父の横暴を予感した私一人が慌てふためく。
「お父さん!お願いだからやめて!」
「お前は黙ってろ」
「やめてったら!!」
父が懐から取り出したスマホでどこかへかけようとしている手を、テーブル越しに無理やり止めようとするもあっさり振りほどかれる。
「ちょっと!刑事さん!あなたも止めないと!人生棒に振ることになりますよ!」
「えっ?」
いきなりそんなことを私に言われても、何もピンと来ていない彼のすっとぼけた表情がまたつらいところ。
これから地獄が待っているとも知らずに。
父は手にしたスマホを耳にあて、軽快に会話を進めていた。
「あっ、どうも。折笠です。ちょっとうちの娘があることに巻き込まてね、公にはできないんだけども。……うんうん、そうなの。それで、おたくの一課の三上小太郎くん、しばらくお借りしてもいいだろうか?─────そうか、いやあ助かるなあ。詳しくはまたあとで電話するから、よろしく頼むよ。……じゃあ」
ごにょごにょと聞こえてくる電話のやり取りの後半辺りには、もう私のテンションはだだ下がりになっていて、隣にいる彼の顔を直視できなくなっていた。
彼には彼の生活があるだろうに……可哀想すぎて。
電話を終えた父は、もうすでになにかひと仕事を終えたかのように清々しい空気をまといながらもう一度ソファーへ腰かけた。
その先の言葉を聞くのが恐ろしい。