箱入り娘に、SPを。
『こんなことは言いたくなかったけど』
と、ツネさんはため息まじりにポリポリと頭をかいた。

『美羽ちゃんにせっかく恋人ができたっていうのに、なにをそんなに心配することがあるの?公夫くんだって結婚してるよね?奥様がいるよね?どうやって結婚したの?お見合い?恋愛?どっちにしたって奥様のこと、愛してるんだよね?』

取調室で被疑者をまくし立てるかの如く、息継ぎもせずに言い切ったツネさんが父ににじり寄る。

『公夫くんは奥様と結婚する前にそうやって奥様にSPが四六時中いたらどうなっていたと思う?手も足も出ないどころかなんにもできなかったんじゃない?結婚もできなかったよね?じゃあ美羽ちゃんのプライベートは?気持ちを考えたことは?』

『ツネ…!ツネまでそんなこと言うの!?』

味方に裏切られたみたいに父はうろたえているが、はたから見たら父の傍若無人ぶりに周りが翻弄されているだけである。

『三上くんはなんてったってキャリア組だもん、ちゃーんとしてるよ。優秀な子だよ。…ここは公夫くんが子離れするチャンスだよ。美羽ちゃんを三上くんに託してみてはどうかなあ』


にこにこしているツネさんとは正反対に、論破されたことに呆然としている父は初めて見るような顔をしていた。

ここでツネさんのダメ押し。

『警視総監たるもの、感情に惑わされず堂々と構えるべし』

そうだよね?とツネさんがガシッと父の肩を掴んだ。
それも、わりと強めの力で。

『そ、そうだな……』

しゅんとして、そしてうなずいた父を横目に、またツネさんは私にまばたきのようなウインクを飛ばしてきた。
ウインクに気が抜けて、父に回し蹴りを食らわせるのを忘れてしまった。


────ここでやっと、父の束縛から初めて解放された。

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