箱入り娘に、SPを。

知らないひと

その後、秋深くなってきた頃に出動要請が出た。


はからずも、願いに願っていた三上くんと再会したのは、都内の使われなくなった埠頭に反社会的勢力グループによる誘拐事件が起きたから手伝いに来てくれと言われたその日だった。


「け、警視総監の娘さんが誘拐された!?」

警視庁全体に激震が走った日。
犯人グループに人質としてとられているのが、警視総監の娘だというから驚いた。

衝撃が抜けきらないまま、それぞれがパトカーへ乗り込む。

『犯人グループは集団でT埠頭に集合している模様。SATへ出動要請済み。拳銃所持の可能性あり。各部隊、気を引き締めて向かうように。現着した部隊から報告し、指示通りに囲い込む。各自防弾チョッキ着用せよ』

無線から緊張感のある声が聞こえた。

防弾チョッキのベルトを締めながら、スマホに送られてきた情報を追う。同時に無線も繋がるイヤホンも装着した。


相手が反社会的勢力の大人数グループと聞いて、正直もう警視総監の娘さんの命は消されているのでは…という懸念さえ浮かんだ。

パトカーを運転するのは例のイケメン近藤くんだ。

「錦戸さん。現場に三上さんがもう着いてるみたいです。埠頭は広いのでポイントをしぼって悟られないように少人数で乗り込む作戦のようです」

「────三上くんがいるの!?」


後部座席から身を乗り出して近藤くんの顔を覗き込んだ。
運転している彼からしてみれば、その行動は突拍子もないものだったらしい。
ビクッと怯えたようにハンドルを握り直していた。

「は、はい!さっきそのように無線から…」

聞き漏らしだ、私としたことが。

「私たちはどのポイントに行くの?三上くんのいる場所は?」

タブレットで位置を確認する。

「自分たちも三上さんのいるポイントへ行く予定です」

「なるべく早く行こう。飛ばして」

傍から見れば、事件解決のために急いでいるように見えるだろうか。それでいいのだ。

大怪我をして入院しているわけではなかったんだ。
その安堵と共に膨らむ違和感。
ひとまず無事であったことがよかった。





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