箱入り娘に、SPを。
「今日は何か食べて帰ろうかと思うんです」

小太郎さんに警護されるようになってそこそこ経ったが、彼も早く帰りたいだろうと私なりに気をつかって寄り道もあまりせずに過ごしていた。

しかし、そろそろ限界だった。
ジムの日以外に予定も入れず、友達との飲み会も入れず、遊びに行くこともせず、モヤモヤしていたところだった。

自炊しなくもないが、誰かが作った美味しいご飯を食べたい!

「どうぞ、ご自由に」

さらりと返してくる彼に、ゴホンとわざとらしく咳払いしてみせる。

「一人で可愛いカフェとか行きたいんですけど」

「だから、どうぞ僕にはおかまいなく」

「だってジムの時みたいにしれっとついてくるんですよね?」

「そりゃあ警護してるから…」

「…ねぇ、日々こんなんでやってられない!って思わないんですか!?」

えっ、とここで初めて彼は戸惑ったような目をした。
あまり深く考えない性格なのか、むしろ小娘の警護なんてラクな仕事でラッキーと思っていたのか、分からないが。

「ほとんど自分の時間もないですよね?シフト制ってわけでもなく、ずーっと、ずーっと私と一緒。事件が起こるわけでもなし」

「うーん、平和な毎日過ごせて最高だけど」

その答えは答えになってるのだろうか。
本職をまっとうしてくれ。

「こんな毎日じゃなくて、大変な事件が世の中には起きてるじゃないですか。そちらへ行ってください」

「お父さんに言ってくれないかなぁ、美羽さんから」

「無理に決まってるじゃないですか…」

あの父ですよ、と言ったら笑われてしまった。
はぁ、とため息がこぼれる。

以前、警護してくれていた人たちもそうだった。
家庭があっても、自分の時間がなくなっても、私についてきてくれていた。
私が父に頼み込んで、警護を交代制にしてもらったこともあった。
だって、自分の日常のせいで誰かの生活が犠牲になることがどんなに無駄なことか、父は考えたことがないのか?

しかし、私のそんな回想をよそに、小太郎さんは予想外の言葉を口にした。

「まあでも、君が何も知らないようでよかった」

「…なにがですか?」

「ううん、別に。美羽さんは僕のことは気にしないで、思うようにしたらいいよ。行きたいところで好きなものを食べていいんだよ」

私の問いには答えず、彼にそう言われてどこか納得がいかないながらも渋々うなずく。
“何も知らない”とは?

もやっとした気持ちを抱えたものの、食欲が勝ってしまい、久しぶりに数ヶ月ぶりのお店へ行くことにした。







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