箱入り娘に、SPを。
すると不意に私だけに聞こえるように顔を近づけて、ご丁寧に手まで添えて耳元で尋ねてきた。

「拳銃があるか確かめたかったんでしょ?」

もはや、声も出なかった。

私の顔を見て、当たったねと喜んでいる小太郎さんの腰のあたりを見やる。


だって、だって、初めて会ったあの日。
いや、正確には初めてではないのだろうけど、クラブで助けてもらったあの日。
たしかに彼は腰のあたりに拳銃をつけていた。

警察官というものは、つねに装着しているのかと思って、興味本位でやってみたのだ。

ところが何もつけていませんよ、とばかりに上に着ているジャケットをわざと脱いだ小太郎さんは、きれいな白いワイシャツとチャコールグレーのスラックスに、黒革のベルトしかついていないのを私に見せてきた。

「…証拠を見せつけてるんですか?」

「持ってるわけないでしょ?日本がどれだけ拳銃に対して厳しいか知らないんだね」

「それくらい知ってますよ!」

口をとがらせる私を面白がっているようなので、仕返しにバッグに入っていたポータブルのハンディファンをヤツの顔に向けて風量最大でつけてやった。
ふわっと小太郎さんの髪の毛が揺れる。

「あっ、僕この手の人工的な風、生ぬるくて苦手〜」

一瞬とても嫌そうな顔をして、小太郎さんは立ち上がった。
そしてなんてことない表情でつり革もつかまらずに私の前に立つ。

へぇ、小太郎さんにも苦手なものあるんだ。
生ぬるい風。
風がぬるく感じるくらいには、季節が移り変わりつつあることを実感した。


彼が立ち上がっていなくなった私の隣に、ちょうど駅に着いた電車に乗り込んできた高齢女性が座る。


その時、分かった。

なるほど、風が苦手って言いながらさりげなく立ったのは、高齢女性が乗り込んでくるって気づいたから?
すぐ座れるように立ったのかな?

「………小太郎さんも、優しいところあるんですね」

なんとなく褒めただけなのだが、本人はすっとぼけた口調で爽やかに笑うのだった。

「僕はいつだって優しいよ」


ほら、猫をかぶっているのは小太郎さんの方だ。











< 26 / 166 >

この作品をシェア

pagetop