箱入り娘に、SPを。
小太郎さんが何かを言いかけて、やめるのが分かったので「なんですか?」と聞いてみる。
が、彼は別に、と首を振った。

「美羽さんはこういうことに慣れてないだけだよ。というか、慣れちゃダメ。犯罪だからね」


それはそうかもしれないけど。
彼が言っていることはおおよそ正しいのかもしれないが、無力な自分はもっと許せなかった。


部屋の前まで来た時に、ようやく彼に持ってもらっていた荷物を受け取る。

「ありがとうございました。小太郎さん、今度なにがいいか教えてください、防犯グッズ」

「だからー、いいって。僕がいるでしょう」

彼がさらっと言うそういうセリフに、いちいち跳ねる心臓に、そろそろ私もイライラしてきた。
そんな反応には気付かないふりをしながら、荷物をきゅっと抱く。

「いつか、いつか…小太郎さんがそばにいなくなったら、私の身を守るのは私でしょ?」

「…頑張らなくても、いいと思うけど」

「なにがいいですかね、催涙スプレー?スタンガン?ブザー…は微妙かなあ」

「美羽さん」


私が抱きかかえる荷物を、小太郎さんは下からそっと支えた。
重みがふっと消え、軽くなる。
荷物のそれもそうなんだけど、心も軽くなるような。

「頑張り屋の君にこの言葉をあげます。美羽さんの隣の部屋にはつねに僕がいるので、今日のところは安心して寝ましょう。以上」


─────今日は、疲れた。身も心も。
それを、全部わかった上での、彼の言葉だ。

「分かった?」
と、念を押される。

悟って、申し訳なくて、でも心はあったかくなった。


「………はい。ありがとうございます」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい。また明日、よろしくお願いします」

「はい。こちらこそ」

小太郎さんはふっと微笑むと、隣の部屋に入っていこうとするのを見て、
「あっ、あの」
とつい呼び止めた。

「どうした?」

鍵を開けたドアノブに手をかけたまま、彼が振り向く。

「…いえ、なんでもないです」

呼び止めたのに、これといった言葉は出てこなかった。


じゃあね、とあっさり部屋に行ってしまった彼を見送り、ぽつんと残ったマンションの廊下でふと思う。

『いつか、小太郎さんがそばにいなくなったら』

それを言ったのは紛れもなく私。
だけど、この言葉の重みが今になってずしっとのしかかってきた。

いつか、彼だって本来の仕事に戻る日が来る。
私の護衛なんて、替えはいるはずなのだ。
そう思ったら切なくなってしまった。


警察官と恋をするのは嫌。

と言い聞かせて、気持ちを切り替えるように息をついた。
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