箱入り娘に、SPを。
今日はやけに靴の音が響いて聞こえた。
いつもはそんなに気にならない音なのに、今日だけは違う。

マンションのエントランスを通り抜け、エレベーターを呼び出した。
すぐにそれは到着し、ぱっとドアが開く。


エレベーターに乗り込んで、少し遅れて乗り込んできた小太郎さんと、ようやく、やっとのことで、顔を合わせることができた。

目が合うとにこっと微笑まれて、好き、と心の中でつぶやく。
こんなにドキドキするのも、会う回数が減ったらどうなるんだろう。


『6』を押して、ドアがゆっくり閉まる。

そのドアが閉まった瞬間、彼の手が私の手をとった。

声が出そうになって、それよりも先に心臓が制御できないほど跳ねまくり、何が起きたんだと頭が震える。
完全にこの時の私は顔からすべての感情が漏れ出ていたと思うのだが、小太郎さんは落ち着き払った様子でもう一度

「ごめんね、美羽さん」

と今度はちゃんと目と目を合わせて、手も繋いで言われた。

「は、は、はい、あの、」

手が、手が、手が。

おろおろして、彼の目と繋がれた手を視線が行ったり来たり。
そんな私をよそに、彼はいたって真剣だった。

「今しか誰にも見られずに二人きりになれないでしょ」

「そう、かも、しれないんですが、あの、」

外での彼とだいぶ違うんですけど、どうしたら?

あたふたしている私とは対照的に、彼は一瞬視線をさまよわせたあと、

「もう今だけしかないから、ちょっといいかな」

と言って、思いっきり正面から抱きしめてきた。


なにが─────起きてるの?

ぎゅうっと全身を抱きしめられ、もはや私の思考回路は完全停止状態にあった。


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