箱入り娘に、SPを。
計画実行
鬼塚さんの窮屈そうな姿を見るたびに、満員電車はやめた方がいいのだろうなと思う。
まさに体を張って、人混みに絶対にさらさないようにしようという強い意志を感じる。

「鬼塚さん」

「…ハイ」

ぷるぷると爪先立ちながらも、返事はしてくれる。
手すりなんてあるわけもないので、彼は長身を生かして吊革が下がっているその接合部分を握っていた。
これはよく小太郎さんもやっていたような気がする。

鬼塚さんは彼とは違い、両手で万歳するみたいにつかまっていた。

「満員電車はこれからは避けるので、今日だけ我慢してもらえれば」


今日だけは仕方ない。
なにしろ、出版社が主催する、販売促進マーケティングのイベントに出向いているからだ。
夕方から始まるため、ちょうど学生の帰宅ラッシュにぶち当たってしまった。

心苦しいほどに渋い顔をしている鬼塚さんが「いえ!」と、こんな時でも男気を見せる。

「お気にならさずです!」

今日も彼は元気だ。



─────結局、鬼塚さんがほぼメインで私の警護についてくれていて、あれから小太郎さんが現れることはなかった。

連絡先は知っているので、勇気を出してメッセージを送ってみたりもしたのだが。
深夜や早朝など、明らかに合間に返信をくれているような時間帯の応答で、しかも文面もそっけない。

これは迷惑以外のなにものでもないのでは、と途中から連絡を取り合うことを諦めた。


「んっ?折笠さん、ここが降りる駅なのでは?」

…と、鬼塚さんに言われるまで当該駅であることを忘れていた!
慌てて二人で降車する。

考えごとをして乗りすごしてしまうところだった。
降り慣れない駅なので気を抜いていた。

「鬼塚さん、ありがとうございます。もうすっかり降りる駅わすれてました」

「いえいえ、これくらいは!」

シゴデキ!と褒めると彼は分かりやすく照れていた。


これくらい分かりやすいひとなら、恋するのにはいいのかななんて現実にはなりそうにないことを考えた。
分からないからこそ、つい気になって目で追ってしまう恋愛の不思議さ。

直線がいいのか曲線がいいのか、はたまた波打っているくらいの方がいいのか。
恋愛のそれは人それぞれである。







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