虚愛コレクション


――


とても気分がよかった。

気分がよかったから言った。


「透佳さん、今月はクリスマスがありますし、デートしましょう?」


どうにもする気がなかったその日を、自分でどうにかしようとした。

千代に好意的な言葉を言われて、透佳さんにも歪な形で好きと言ってもらえて、何となくだけれど前向きになれたような気がする。いいや、後ろを気にせずにいようと思えただけか。後ろを気にしても、私は救われないのだ。

とにかく、気づかれるとかそんな杞憂を考えることはなくなった。

だからだ。だからこんな提案をしたのだ。

数秒置いて、カチャッと食器がぶつかり合う音がした。

マグカップの中をグルグルとスプーンで掻き回しながら、彼は言う。


「何でアンタとそんな事しなきゃなんないの」


提案しながらも、彼の言うことは予想できていた。

だから、クスリと笑って見せた。


「何でって、恋人ごっこですよ」


尚も彼はコーヒーを掻き回しつつ、私を見る。

視線は微妙に左右、上下に揺れている。が、暫くすると真っ直ぐ一点、私だけに集中する。

今のは何だったのか首を傾げてしまった。が、彼が口を開いたので直ぐに意識はそちらに向かった。



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