虚愛コレクション
雑踏の中ポツリとつぶやくように、けれど確実に聞こえるように近づいて言った。
彼は歩きながらチラリと此方を一瞥する。
「何それ。それも恋人ごっこ?」
「そうです。恋人は手を繋ぐものですから」
にっこりと笑い、ヒラリと手を振ってアピールする。
だけどその手には触れられることはない。返答もなければ彼がポケットから手を出すこともなかった。
それが彼の答えだ。
「けち」
ぼそっと呟いて、せめてもと彼の服を摘まむようにもって離れないように歩いた。
それに対して彼は振り払うわけでもなく、こちらを見るわけでもなかった。
手を繋ぎたい、触れたい。そう思ったけれど、案外これでも満たされたような感覚があった。