虚愛コレクション


ちょっとだけ、ツレない態度がいい加減気に入らなかったので、わざと棘のある言い方で問いかけた。

この調子だと、嫌いなら嫌いで彼ははっきり言うと思っていたのだが、結果は、予想を少し外れていた。


「言ったじゃん。アンタの中身は嫌いだけど顔だけは好きだって」


瞬間、ぶわっと熱と痺れと痛みの幻覚が一気に押し寄せた。訳も分からず初めてする行為に耐えていた最中に言われた記憶が一気に呼び起されたのだろう。

そう、確かに言われていた。妙に曖昧に、掠れ掠れにしか覚えていないが。

彼はピタリと人の通行の邪魔にならない所で止まり、またいつの間にか距離が開いていた為だろう、振り返った。

風のせいで乱れた長い前髪は、両目に被さっていたが、隙間から瞳はよく見えていた。

優しさなど微塵にも感じない。変わらずに冷たい。遠慮などない彼のすべて。捕えられる私の姿。


「覚えてないなら言っといてあげる。その中身と外見が合わさるとね」

「……合わさると?」

「――……すごく興奮する」


笑いもせずに、しれっとそんな事を言う。居ただろうか、こんな偽りもなく自分の感情を吐き出す人が、自分自身に忠実な人が。少なくとも私は出会った事がない。

皆取り繕って、その場限りの戯言ばかり吐き出すのだ。

やはり。彼への興味は増すばかり。


「透佳さんって、変態ですよね」


笑って見せれば「そんな奴に近づいたのはアンタだよ」と切り返してきた。

そう、紛れもなく私なの。


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