虚愛コレクション
「ところで、さっきから私の事をアンタって言うの気になってたんですけど、止めてくれません?」
自分でもテンポが悪いなと思いながら、新しい会話を繰り出してしまった。最早癖なのかもしれない。
「今の流れで何でそんな話題になるのか分かんないんだけど」
案の定言われてしまったが構わない。直せそうにもないのだ。
名称で呼ぶのならそれでもいいと思っていたが、二人称で呼ぶのであればどうせだったらこの名を口にされたいという、少しの我儘。違いなど些細なもので、彼からするとどうだっていいことなのだろうけれど。
「性質ですって。それで、私、祈って名前なので祈って呼んでください」
先まで切るように返されていた言葉なのに、これには間が開かれた。
「何で一々名前なんて呼ばなきゃなんないの」
「……?」
そして、それに変だな。と思った。たかが名前を呼ぶだけだ。なのに、拒んでいるように感じ取れてしまった。
何故拒むのか。理由は見当たらない。まさか、中学生みたいに名前を呼ぶのが恥ずかしいなどと言う理由ではないだろう。彼はそんな人ではない。だとすると。
「名前呼ぶと、何か不都合でもあるんですか?」
「意外と鋭いね」
否定ではない。肯定の意。
考えつかない不都合に、もう一歩踏み込んだ。
「何が不都合なんですか?」