虚愛コレクション
目に掛かりっぱなしの前髪がいい加減邪魔になったのか、荒っぽい手つきで前髪を払った後、言った。
「名前って、呼べば呼ぶほど愛着湧いてくるから呼びたくない。分かるでしょ?犬猫に名前付けるのと同じ心理。独占欲とか強くなるから嫌」
答えてくれるとは思えなかったが、存外躊躇いを見せる事無く答えてくれた。
悪いのか悪くないのか分からなかった機嫌が、プラスの方に浮上しつつあるのか。
それにしても、少々この言葉には思い当たる節が無いわけではなく、「じゃあ、いいじゃないですか」と安易に口に出すのは憚られた。全面的に私自身の問題だ。
「透佳さんが、そんな事思うなんて意外です。どうしてですか?」
嫌な気持ちは分かるのだ。私の場合は、その独占欲が相手と相対ではないと気づいた時どうしようもなくなるから嫌なのだ。
それでも仲良くなろうとするには、ここが最初の入り口なのだから我慢すべき事でもある。
しかし、なら、彼はどうなのかと純粋に思ったから代わりにそう言ったのだが。
「アンタに愛着沸きたく……なくはないけど、犯罪犯しそうだから嫌。そんな経歴要らないし」
「――……」
「別に犯すなら犯しても私はいいですよ」それも普通なら言うはずなのに、飲み込むしかなかった。どうやら私は恐れているらしい。相対ではなくなった時のそれを。
どんな犯罪を彼が犯してしまうのかは、この際二の次だった。