虚愛コレクション
そうやって神楽君に促されるままに、初めてゲームセンターでゲームをしたのだが
「何で?!しっかり掴んでたのにおかしくない?!」
何度やってもマスコットを掴むことも叶わない。
全く欲しいとは思わないけれど、掴んだはずのアームが犬を撫でるように滑る度に、ムキになっていく。
「祈ちゃん意外と短気だなぁ、こんなのはでっけぇ貯金箱って思って金を喰わせること前提なんだって」
神楽君自身は慣れたものなのだろうけれど、わかった風に宥められても苛立ちは消えない。
この力のないアームでは、貯金箱どころかお金を溝に捨てるようなものではないだろうか。
そう考えていれば、神楽君はまたお金を投入した。
「絶対無理だよ」
「まあ見ててよ、地道な作業が1番早いんだから」
と、弱いアームは弱いアームなりの使い方があるらしく、片方の爪だけでマスコットを動かしてみたり、バランス悪く頭の方を持ち上げて滑らせたりを繰り返す。
そんな細かい作業を数回繰り返して、数センチしか動かなく意味もなさそうにすら見えていた行動だったのだが、気がつけば景品の落とし口まで来ていた。
景品が落ちればファンファーレのような音楽が鳴り響く。
「わっ!落ちた!凄い!」
取れはしないと思っていたものが取れて、はしゃぐように思わず取り出し口に手を伸ばす。
「その犬よかったらどーぞ」
「え、要らないけど」
「……」
喜んで一番に手を伸ばした癖に率直に返せば、無言でマスコットを握った手ごと強く握られる。
どうやら持っとけと言いたいらしく、やはり神楽君もまた要らないらしい。
何となく思うのは、取れそうにないものを取る事が楽しいのだろうな、と言う事。