虚愛コレクション
彼は私を上から下まで見た後問いかけてきた。
「何で傘持ってるのに濡れてんの」
「傘、同じ学校の知らない人が途中で貸してくれたんですよ」
「ふぅん。じゃあその足は何」
「滑って転びました」
「案外どんくさいね」
呟いて、彼は浴槽がある場所に入っていった。労る気持ちなど彼には求めてないが少々心外である。
「ん」
「……ありがとうございます」
けれど、タオルを貸してくれただけ有り難いので感謝しないといけない。
借りたタオルで髪と服を拭きながら身震いをする。濡れた制服が気持ち悪くて冷たい。
一通り滴る水滴が無くなったのを見計らったのか、タオルを渡してから奥に引っ込んでいた彼は玄関に突っ立っている私の元へと再度やってきた。
「靴下、脱いで上がって。後勝手に使ったら良いから」
と早口に言うとタオルを私から奪い。脱衣所にタオルを投げ入れた。
適当だろうと思いながらも何も言わず、自分を優先させた。勝手に使ったらいいと言うのならお風呂を借りよう。さすがに風邪を引くのはごめんだ。ああ、なら。
「透佳さんドライヤーとか、あります?」
「……ドライヤー」
復唱するようにポツリと呟かれる。
無くても不思議ではないから期待はしていなかったのだが意外なことに「ちょっと待ってて」と返答が返ってきた。