雨宿り〜大きな傘を君に〜
ずり落ちたカーディガンを先生はかけ直してくれて、私の頭を撫でてくれた。
「もう二度と女性と関わることは止めようと思っていた。俺が有明の件のリベンジのために君に近付いたと誤解されてもおかしくはないけど、それは違うんだ。適当に講師をして、適当に生きていこうと思っていたけれど、あの日、ハナちゃんが準備室でうたた寝をしていた時、心が動かされた」
「え?」
「寝言でハナちゃんはこう言ったんだ。"助けて"って」
助けて?知らない、覚えてない…。
崎島から逃げていた最中だったから、そう口走ってしまったのだろうか。
「眠りながら、涙を流してたよ。君は何かから逃げていてそう呟いたのか、それとも何かに苦しんでいるのか、気になった。…怖い夢を見ているだけなら良いと思った。怖い夢のせいであればその助けては一時的なものだろうから。けれどその後、雨の中に佇む君を見て、あの助けては現実世界に対してかもしれないと想像した」
顔を上げて先生を見る。
頭を撫でてくれる手は止まらない。
「その現実から君が助かるために、こんな俺でよかったら力になりたいと思ったんだ。他の誰かでなく、ハナちゃんだったからだよ」
「…先生……」
「過去の失敗を繰り返さないために、中途半端は止めることにした。全力で君を守ろうと誓ったんだ」
胸が締め付けられる。
私だから、守ろうとしてくれたの?
「そしてその役目を崎島に取られそうになって、たぶん俺は彼に嫉妬しているんだろうね」
「嫉妬…?」
「いい歳してヤキモチだなんて、カッコ悪いね」
決まり悪そうに呟いた先生の言葉をすぐには理解できなかった。