雨宿り〜大きな傘を君に〜

しかしすぐに先生は笑った。


「そうだよね、君にはもう崎島という友達もいるし。俺を頼る必要もなくなったよね」


口調は優しいし、頰も緩めているのに。その目は笑っていない。


「崎島のことは関係ないです…」


「崎島と隠れて会うとは、俺に気を遣ってくれた?もしかして俺にしたようなこと、崎島にもしてるとか?」


「は?」


「彼に告白したり、キスしたり、した?」


空気が凍る。

信じられない。
菱川先生の口から飛び出した言葉とは思えない。


豹変した先生の態度に戸惑いながらも、誤解をして欲しくないと首を振って否定する。

私の気持ちは先生に少しも伝わっていなかったんだ。子供のたわごとだと軽く思われていたのかも…。



「私は菱川先生が、好きです。他の誰でもない、あなたが好きだから!こんなにも苦しいのに!どうして…」


「……だから、ずっと傍にいると言っているのに。それを拒むのはハナちゃんの方でしょう?」


深い溜息の後、先生は呟いた。


「どうしたらいいのか分からない。兄貴らしく振る舞えばいい?」


「……」


「…ごめん。君を傷付けると分かっていたのに、こっちの事情で君と俺の過去を重ねて、ごめんね。だけど、君に優しくした心は嘘じゃないよ」


先生がどのような表情をしているか確認することが怖くて、下を向く。

昼間の玉子焼きはふわふわしていて美味しかったな。幸せな時間を思い出して、息苦しくなった。

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