雨宿り〜大きな傘を君に〜
なんで…ここに。
まさか後を付けられていたのだろうか。
「私、このデパートのカフェでバイトしてるの。アンタに付き纏ってたわけじゃない」
こちらの考えを見透かした答えに頷く。
「菱川先生へのプレゼント?確か、一昨日だよね…」
「はい。渡せてなくて」
有明さんは先生の誕生日を把握していたようで、悔しい。
「私のこと、先生に話さなかったんだ」
「ええ」
なにを言われるのかと、身構える。
大丈夫、堂々としていれば良いよね。
「アンタに先生を渡したくない。悪いけど、諦めてくれる?」
「この間は先生のことを酷い人のように話してたのに、随分と態度が違いますね」
有明さんがたくさん傷付いて、決して彼女だけが悪いわけでもないと知っているけれど。
同情など以ての外だし、毅然と振る舞う。
「バイト仲間殴って、警察に連れていかれた時、先生が助けに来てくれたの」
知ってるよ。
「その時に思ったんだよね、やっぱり先生のことが好きだって」
「私も、菱川先生のことが好きになりました」
この前はただの同居人だと答えてしまったけれど、今は違う。
はっきり自覚した気持ちから、逃げたりしない。
「はあ?」
金髪に、革ジャン。短パンからは綺麗な長い足が覗いていて、耳には無数のピアス。
例え先生にフラれたとしても、大学に行くという安定の道から外れた生き方は、きっとたぶん私にはできない。
それでも生きる世界が違うなんていう、偏見でしかない理由で誰かと距離を置くことはもう止めにしよう。
「あなたに、先生は渡さない」
目を逸らさず、言い切った。