雨宿り〜大きな傘を君に〜
日曜日。
当日まで崎島と話す機会はなく、午前中で塾の講義が終わった。
菱川先生には崎島と出掛ける旨を正直に伝えておいた。
余計なことは言わずに先生はただ"いってらっしゃい"と笑ってくれた。
「行こうか」
私の横を通った崎島の声が耳に届く。
どうやら2人きりで行くようだ。
今更キャンセルしたいとは言えないため、教室を出て行く背中を追う。
なんとなく事情を察しているような素振りで菊池さんが「頑張れ」と声を掛けてくれた。
あのデートという単語が、嘘であればいい。
私たちは性別を超えた友人であり続けられたらいいのに。崎島の気持ちを無視して、そう思った。
崎島が向かった場所は駅前のファミレスで、窓際の席に座る。少し身構えていたため、何度か来たことのあるお店で安心する。
「大野のこと、避けててごめん」
高そうなファーのついた上着を脱ぎながら崎島は私を見ることなく謝罪の言葉を口にした。
「どうしても2人きりで話したくて」
「やっぱり避けられてたんだね…」
「デートなんて突然、言い出して驚いただろう」
頷く。
確かに最初は、崎島の私に対する態度が怖くて戸惑った。
けれど彼の家の事情も聞いて、似た者同士だと知り、怖いという感情はなくなった。大切な友人になれたと思い込んでいたよ。