雨宿り〜大きな傘を君に〜
「俺、大野が好きだ」
真っ直ぐな思いが届いた。
炭酸飲料の泡の弾ける様子に視線を向けたまま、崎島は私を見ようとはしなかったけれど。
その切実な思いはちゃんと届いているよ。
「おまえのことがずっと気になってて、大野の後ろの席を陣取って。早くおまえと仲良くなりたいって、講義どころじゃなかった。やっと話せるようになって、一緒に出掛けられるようになってすごい嬉しかった」
どうしよう。なんて答えたら崎島を傷付けずに済むのだろう。
「クラスの奴らとも仲良くなって、最近の大野はよく笑うようになった」
「崎島のおかげで、みんなと仲良くなれたよ」
「それは違うよ」
顔を上げた崎島と目が合う。
「前みたいに殻にこもっているおまえじゃなく、表情が柔らかくなって、挨拶をちゃんとするようになって、大野の雰囲気が変わったから。だからみんな話し掛けやすくなったんだ。決して俺のおかげなんかじゃないよ」
私は変われのだろうか。
だとしたらそれはやはり崎島のーー
「菱川だろ」
「え?」
「おまえを変えた奴は、菱川先生だろう?」
「…まさか、なんで…」
言い逃れしようと口を動かしてみたけれど、あまりに真剣な表情の崎島がそこに居たから。
私は目を閉じた。
「そうだよ。私、菱川先生のおかげで、生きにくい毎日が明るいものへと変わったの」
素直な偽りのない気持ちを話した。