雨宿り〜大きな傘を君に〜



「俺、大野が好きだ」


真っ直ぐな思いが届いた。

炭酸飲料の泡の弾ける様子に視線を向けたまま、崎島は私を見ようとはしなかったけれど。
その切実な思いはちゃんと届いているよ。


「おまえのことがずっと気になってて、大野の後ろの席を陣取って。早くおまえと仲良くなりたいって、講義どころじゃなかった。やっと話せるようになって、一緒に出掛けられるようになってすごい嬉しかった」


どうしよう。なんて答えたら崎島を傷付けずに済むのだろう。


「クラスの奴らとも仲良くなって、最近の大野はよく笑うようになった」


「崎島のおかげで、みんなと仲良くなれたよ」


「それは違うよ」


顔を上げた崎島と目が合う。


「前みたいに殻にこもっているおまえじゃなく、表情が柔らかくなって、挨拶をちゃんとするようになって、大野の雰囲気が変わったから。だからみんな話し掛けやすくなったんだ。決して俺のおかげなんかじゃないよ」


私は変われのだろうか。
だとしたらそれはやはり崎島のーー


「菱川だろ」


「え?」


「おまえを変えた奴は、菱川先生だろう?」


「…まさか、なんで…」


言い逃れしようと口を動かしてみたけれど、あまりに真剣な表情の崎島がそこに居たから。
私は目を閉じた。



「そうだよ。私、菱川先生のおかげで、生きにくい毎日が明るいものへと変わったの」


素直な偽りのない気持ちを話した。

< 207 / 221 >

この作品をシェア

pagetop