雨宿り〜大きな傘を君に〜
食堂近くのベンチに移動して、空を見上げる。
よく晴れた良い日だ。
冬にしては気温が高く、マフラーなしでも寒くない。
「いい天気ですね」
「そうだね」
「でも私は先生との始まりの日が大雨だったから、雨も好きです」
「バレンタンデーの日も雨だったね」
バレンタインデー。先生が私を好きだと言ってくれた特別な日。
「私の心の中はずっと雨が降っていて、嵐のように心が荒れていたのですけれど。緒方さんと先生の住む家で、雨宿りさせてもらって、いつの間にか心が晴れていました」
「止まない雨はないって有名な言葉だしね。これから辛いことがあってハナちゃんが大雨に見舞われたとしても、俺は傘を持って何度でも君を迎えに行くから。どんな時も支えるから、君らしい人生を、勇気を持って歩んで欲しい」
「菱川先生が傍に居てくれるだけで、心強くて、怖いものはもうなにもないのだと思えます」
いつだって先生の言葉は私の胸の奥深くにじんわりと浸透していく。
そっと先生の手に触れると、握り返してくれた。すぐに恋人繋ぎに変わる。
少しきつく絡まる指は、私を一生離さないという先生の意志のように思えて、幸福に包まれた。
「君は何者も、どんなことも、怖がったり恐れる必要はないよ。絶対に俺が守るから」
知ってるよ。菱川先生。
あなたはこの先も、大きな傘のように降り注ぐ雨から私を守ってくれるのだろう。