雨宿り〜大きな傘を君に〜
「ありがとう、ハナちゃん」
「思ったことを口にしたまでですから…」
あまりに先生が嬉しそうな顔をするから、私まで照れてしまった。
「俺は高校の教師になる夢を捨てて、自暴自棄になってしまった。アルバイト生活で構わないと就活すら放棄した俺に、緒方さんは今の塾を紹介してくれたんだ。緒方さんとは大学で知り合った。緒方さんの講義はとても面白かったなぁ…」
緒方さんが先生を導いてくださったのですね。
「どうにか塾講師にはなれたけど、ただ毎日を淡々と生きているだけだった。そんな時、うたた寝をする君を見て、なぜか心が安らいだ気がした」
「先生…」
「生徒と関わらないようにしてきたけれど、もう少し、頑張ってみようかな。もっと生徒を引き込めるような授業を展開してみようかと思うんだ。まがいなりにも先生だからね」
良かった、私だけじゃない。
あなたと出逢い、私が変われたように。先生も変わろうとしてくれている。
与えてもらうだけでなく、与えられる関係になりたい。
「私以外に先生のファンが増えることは困りますけど、でも。それ以上に先生の講義を受けて数学が苦手教科から好きな教科へ変わる生徒が増えることが、私も嬉しいです。先生のことも好きですけど、先生の講義も私は大好きですから」
前にも伝えたけれど。
その時以上に、先生であるあなたを好きなっているんだ。
「ハナちゃんが俺の講義を好きと言ってくれるから、自信がもてたんだ。君のおかげだね」