雨宿り〜大きな傘を君に〜

緒方さんの家でお世話になるということは、菱川先生も一緒に住むということだよね?

先生と生徒がひとつ屋根の下?
それってなんかまずくない?

世間が色々と想像して問題視されそうだし、やっぱり緒方さんの家にお世話になるなんて駄目だ。



「君はなにも心配する必要はないよ」


眼鏡がない分、その綺麗な瞳と直に目が合ってしまう。 見透かされてるよね。



「見ての通り、俺は今の仕事に興味がない。君が気になるなら、俺が辞めてもいいよ」


決して熱意が伝わる授業だとは言えない。
でも私のために彼が仕事を辞める理由はないんだ。



「そんなこと言わないでください。私、数学が1番苦手でした。でも菱川先生の授業を受けてからは数学も好きになりました。先生の授業はとても分かりやすいです」


もっと上手い言い方はないのかな。
先生の授業が私の中では特別だって、少しでも伝わればいい。


「ありがと。でも、正直、どうでもいいからさ」



私を見るその目は、とても冷めていて。

興味がないというよりも、塾講師という仕事を嫌悪しているような…。

部屋の空気が冷たくなった気がした。

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