雨宿り〜大きな傘を君に〜

「暮らしてみて嫌になったら、また考えてみたら良い。とりあえず、ね」


「良いんでしょうか…」


「崎島の件が落ち着くまででも、大丈夫だから。緒方さんもきっと喜ぶよ」


この家にお世話になる自分の姿が想像できない。母と暮らした思い出が残るアパートを離れることも、辛い。


それでも私は首を縦に振った。





「よし、決まり」


「先生、ありがとうございます」


「俺はなにも」


「先生が迎えに来てくれた時、すごく安心しました」


「そう。これから何度でも迎えに行くよ」


母との思い出を置いてまで、新しい家に住もうと決心した理由ーーは、たぶん、この人だ。


先生の言葉に、心が動かされている。
閉ざした心に、あなたの言葉だけが胸深くに入り込んでくるんだ。

さすが、多くの生徒をもつ先生だな。


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