雨宿り〜大きな傘を君に〜
先生の車でアパートに向かった。
一部屋しかない狭い部屋だ。
「何もないところですけど、どうぞ」
部屋に男の人を上げるなんて、母がいたら飛び上がって喜ぶだろうに。勝手に彼氏を連れてきたって勘違いされて…。
「お邪魔します」
この先、自分が誰かに愛されるかどうかは分からないけれど、好きになった人を母に会わせることはできないんだ。
どんなに願っても…。
「お茶を…」
「お構いなく。俺に気を遣わないで大丈夫だから、重い物を運ぶ時は呼んで」
そう言って先生はこちらに背を向けて玄関に座り込み、それ以上は入って来なかった。
衣類をボストンバッグに詰めて、母の写真を入れた。
授業の教科書が1番重いくらいで、私には最低限の荷物しかない。
母も私も必要なものしか買わなかったから、殺風景な部屋で。自分の部屋がないことを残念に思っていたけれど、ここで作った思い出は数知れない。
住み慣れた家が、無性に恋しくなった。