雨宿り〜大きな傘を君に〜

今更、離れたくないなんてワガママは言えないけれど。この場所を手放したくない。

親戚のおじさんにいつまでも家賃を肩代わりしてもらうわけにもいかないって、分かってる。


鼻の奥がツンっとした。
やっぱり私はまだ母との別れを納得したつもりでいても、乗り越えてはいないんだ。
いくつ夜を越えたら母を思い出にできるのだろう。


「ハナちゃん」


物音が止んだことを不思議に思ったであろう菱川先生と目が合う。


「ごめんなさい。母のことを、少し考えてしまって」


ヘラヘラと笑い、荷造りを再開する。
緒方さんのお家でお世話になるって決めたんだもん。いつまでも我が家に執着していられない。


ドンっ。
優しい衝撃が背中に走った。



「お母さんに一度だけ会ったことがあるよ」


先生の背中が私の背中にくっついて、心地よい温もりを感じた。

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