雨宿り〜大きな傘を君に〜
「よく笑う温かい人だった」
「どこで…」
「緒方さんの家で2人はハナちゃんの将来について話し合っていたよ」
母が緒方さんのことをよく話してくれたから、どれだけ信頼しているかは理解している。けれど母のいない将来について話したところで、希望はないんだ。
「大切な場所から離れることは辛いよね」
「はい…ここから出たくなくて、何度も緒方さんの誘いをお断りしてきました」
背中越しで語り合う。
目を見て言いにくいことも、話しやすい。
「ここから離れたら、もう二度と母に会えない気がして…」
声が震える。
会えない。どこに居ても、どこに行っても母には会えない。分かってる。
頭の中ではちゃんと、分かってる。
「馬鹿みたいって分かってるんですけど」
「………俺には君の気持ちは分からないし、分かっているフリをして君を傷付けたくない。だから、今、俺ができることをするね」
え?
彼が態勢を変えた気配がする。
そしてそっと首に回された腕に、ひどく動揺した。