雨宿り〜大きな傘を君に〜
本屋の前で先生は笑った。
「こちらこそありがとう」
「私がお礼を…」
「いやいや、こんな日に俺に付き合ってもらっているんだからね…おっと、」
ドンっ、という鈍い音と共に肩に衝撃が走る。
すぐに振り返ると、足早に立ち去る男の姿が見えた。
「大丈夫?」
「ッ…」
咄嗟に菱川先生は私の腕を掴んでくれて、引き寄せてくれていたようだ。
縮まった距離に驚いた。
「す、すみません」
顔を上げれば先生の整った顔が間近に迫り、茶色の瞳とかち合う。
「そんなに慌てなくても」
クスクスと至近距離で菱川先生が笑うものだから、息がかかる。
「……近いです」
「近いのはダメ?」
ダメとかそういう問題じゃなくて。
離れようとすれば、私の腕を掴んだ彼の手に力が加えられた。
「もし俺が、崎島だとしたら。君は男の力から逃げられる?」
そう聞いた先生は、もう笑ってはいなかった。