雨宿り〜大きな傘を君に〜
菱川先生が何を言いたいかは分かる。
でも根本的なところで間違ってるよ。
先生は崎島じゃない。
「本気の相手から、逃げられると思うの?」
「逃げられるとは思いません。でもそもそも、腕を掴まれそうになった瞬間に払いのけますから」
真顔の先生を睨みつけてやる。
有難いけれど、やっぱり心配しすぎだよ。
「菱川先生だから油断しただけです。アナタだからです」
「俺?」
「私、菱川先生のことを信頼しているのです」
「……信頼か、」
先生は微笑み、私から距離をとった。
そして冗談ぽく、意地悪に言った。
「ハナちゃんは俺のこと、ほとんどなにも知らないのに?そんな簡単に信頼しちゃっていいの?俺は真面目な塾講師なんかじゃないよ」
「いいですよ、先生がどんな人でも。だって先生は私の味方で居てくれて、崎島のことも私以上に気にかけてくれて。そんな先生が例え性格悪くても自信過剰でも、私は嫌いになんてなれませんから」
先生の元恋人の有明 沙莉(ありあけ さり)さんが、彼のことを悪く言っても少しも私の心に響かなかったように、今更もう嫌いにはなれないんだ。