雨宿り〜大きな傘を君に〜

息を吐く。

正直な心の内を、口にした。





「私には、家族も友達も彼氏もいない。ーー誰も、いません」





真っ直ぐ先生を見る。



「夢もなくて、目標もなくて。あと…」



「もういいよ」


先生は静かに私の言葉を切った。そうだよね。
やっぱりこんな話、誰かにするものじゃないよね。

気まずくなるだけだよね…。


しかし意外にも、先生は目を細めて笑ってくれた。






「それじゃぁ俺が、君の家族に友人に。ーー恋人になるよ」





静かな声だった。


それでもその言葉には破壊力があって、テレビの音、空調の音さえも聞こえなくなった。



先生の声だけが、私の脳を支配する。



「君の夢が見つかるよう、力にもなるし。ハナちゃんが望む限り、ずっと、近くにいるよ」



母の病を知り、近い将来ひとりきりになると悟ってしまった時からーー求めていた言葉をいとも容易く菱川先生はくれた。


緒方さんと同居していると知ったあの日から、先生は私の欲しい言葉や温もりを与えてくれて、その言動はまるで私の心を見透かしているかのようだ。


どうして菱川先生は、私の心を読めるのだろう。
大人からしたら16歳の女子の心境は分かりやすいのだろうか。

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