心の中に奏でる、永遠の向日葵
「よかったぞ、日向。みちがえたよ」
 

父さんは、そう言いながら俺に近づいてくる。
 

三人は、「向こう行ってるね」と俺に声をかけると、気を使って離れてくれた。
 

「やっぱり、ああやって楽しそうに弾くのが、一番だよな」
 

父さんはしみじみと呟くので、とりあえず「ありがとう」とお礼を言っておく。
 

「日向」
 

もう一度名前を呼ばれた。母さんも、俺に近づいてくる。
 

近づいて、俺の目を見たはいいが、中々口は開かない。
 

「…どう、だった?」
 

久しぶりだ。母さんに、自分のコンサートの感想を聞くなんて。
 

いつもは、ダメだしされると思って、絶対に聞かなかったのに。
 

「よかったわよ。これからも、そういうスタイルで続けた方が、あなたの性には合ってるんじゃないかしら」
 

『良かった』
 

その一言を、俺は母さんから、長いこと待っていた。
 

最初の頃は、しょっちゅう言ってくれたのに、いつの間にか言われなくなった言葉。
 

これを、俺はずっと待っていたんだ。
 

「ありがとう。母さん」
 

俺は、心からそうお礼をいうと、何年振りか、母さんに笑顔を見せた。
 

母さんも、優しく微笑んでくれた。演技をしたような笑顔じゃなく、純粋な笑顔で。
 

しばらくだまっていたが、やがて「じゃあな」という父さんの言葉を最後に、父さんと母さんは、そのまま帰ってしまった。



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