一年後の花嫁
あの日格技棟で見たのは、長妻の彼氏と、その上に跨る、女子テニス部の部長の姿。
長妻は彼氏の浮気に勘付いて、それを確かめに行くのに、俺を誘ったのだ。
「本当、らしいよな。普通勘付いてても、わざわざ現場には行かないって」
「藤堂くんは、あのときも同じこと言ってた。でも気になるじゃない」
そういうところが、長妻らしいのだ。
あの日、格技棟裏のモミジの木の下で、あまりに号泣する長妻に胸を貸したとき。
不覚にも俺は、ドキドキしている自分に気付いた。
それはあの年頃の男が、女の子を抱き締めていたら。
相手が誰であろうと、大体そうなるんだと思う。
ただあのときから、完全に俺は長妻を、“女子”として、見てしまうようになったのだ。
「……あの頃に戻りたい」
「え?」
「人生で、一番楽しかった。あの頃が」
今にも消えてしまいそうな、か細い声。
すっかり冷たくなった風が、彼女の長い髪を揺らした。
手を伸ばしたら、すぐ触れられるところに彼女がいる。
俺なら、“あの頃が人生で一番楽しかった”なんて、言わせないのに。