一年後の花嫁
いつもの俺なら、間違いなく、それを受け入れていただろう。
それに打算とか、そういったものは一切ない。
ただ単に、可愛い女の子に好きと言われたら、応えないわけにはいかないという、謎の心理だ。
そんな軽はずみな自分が、びくともしなかった。
頭にあるのは、長妻のあのやたらと耳に響く、威勢のいい声。
そこで初めて気持ちを自覚した俺は、それから事あるごとに、「話聞くよ」なんて格好つけて。
部活終わりに、格技棟の裏で、長妻の未練話を聞いてやっていた。
そうして真っ暗になった頃、二人で並んでアイスにかぶりつきながら帰るのが、あの頃の定番だったのだ。
それが出来なくなる夏休み前。
俺は地元の割と大きな花火大会に、彼女を誘った。
……あんな、仕方ないから、みたいな言い方だったけど。
『いつ?』
『八月三日』
『土曜日か。うん、大丈夫だよ』
嬉しくて嬉しくて。
ガッツポーズを繰り出しそうになるのを、必死に抑えた。
『浴衣、着てこいよ』
『えーどうしよっかな』
見事に彼女に焦らされた俺は、夏休みが始まってからのきつい練習も、なんのその。
とにかくその日を楽しみに、毎日を過ごしていた。
そして決めていた。
花火大会の夜。
長妻に好きだと言おうと。