一年後の花嫁
「あたし、夏に引っ越したじゃない。だから、一緒に紅葉見たの初めてだよね」
「……そういえばそうかもな」
「高一の頃は、ただの悪友だったもんね」
その言い方じゃあ、高二の頃の俺たちは、ただの悪友じゃなかったってことになるじゃないか。
いたずらっぽく笑った彼女を、俺は直視することができなかった。
どうにかして、今、彼女を抱き締めていい理由はないだろうか。
こんなに寂しそうに笑う長妻を、俺ならそうさせないという謎の自信があった。
それは、かつての友人として。
かつて俺が恋した、一人の女の子に対して。
このまま放っておけないという、そんな想いだったと思う。
でもそんなのは、あるはずもなかった。
彼女はもうすぐあの男の妻になる“ご新婦様”だし、俺はその二人をお手伝いする“ウェディングプランナー”だ。
だからいくら友人だからって、抱き締めていい理由なんて、一つとしてあるはずがない。
「……なにがあったの?」
せめて俺が、友人としてできること。
「色々だよ。本当に色々。そしたら、もう長妻美波じゃなくなったの」
あの頃みたいに、モミジの木の下で、彼女の話を聞いてあげること。
もう、それくらいしかなかった。
「付き合い始めた頃は、あんな人じゃなかったの」
しばらく俺が黙り込んでいたら、彼女はモミジの木の幹に体を預け、少しずつあの男のことを語りだした。
「だけど、付き合いが長くなればなるほど、なんかちょっと……人として見られなくなってきたっていうか」
「え?」
「わからない?この前のドレスのときもそうじゃない。あたしには人権がないの」
たしかに、彼女の言う意味はなんとなくわかる。
人前であれなのだから、二人だけのときは、さらにひどいのだろう。
「なんでそんな奴と結婚しようとしてんの?」
不用意に苛ついてしまった自分に、驚いた。