あなたの名前は忘れたけれど。
「………」


叩かれた左頬。

ジーン…と徐々に増す痛み。


顔を上げると、先輩が、少し悲しげに俺を見ていた。


「…お前は、兄をクズだと思うか?」


その言葉に思い出すのは、兄の最期の姿。

クスリを辞めれず、売人から奪って逃げ、挙げ句の果てに殺された兄。

変わり果てた、兄の死に様。


もうそれ以外何も思い出せない。


「…クズだと…思います」


そう答えた俺に、「そうか…」とだけ言って先輩は方向を変え、俺に背中を向けて廊下を歩き出した。


何も言わない俺に、先輩は背中越しにヒラヒラと手を振る。


「…お前がタバコを辞めれたら、今日殴った事謝ってやるよ」


そう言い残して。


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