ひと雫おちたなら
浮気って本来そういうものなのか?
したいとも思ったことがないからよく分からなかったのだが。
いよいよ別れを切り出した私に、浩平はそれこそ必死の抵抗を見せた。
嫌だ!嫌だ!俺は別れたくない!
俺が悪かった!もう浮気なんかしない!誓う!
ゆかりのそばにいたい!
ゆかりの隣いたい!
ゆかりともっといろんな思い出を……
─────割愛。
じゃあなんで浮気したんだって話。
そんなこんなで抵抗されて、なかなか別れられていなかったのだ。
じたばた別れたくないと騒ぐ彼氏を見て、どうして私はこの人を好きだったんだろうとぼんやり思った。
別れるのを少しでもためらった滑稽でみっともない私より、よっぽど浩平のほうがみじめだった。
「さっきの睦くんに、本当に協力してもらったら?」
「……ん?」
そばをすすりつつ、すでに汁のみになった器をコトンと置いた瑠美がにこりと笑う。
「新しい彼氏ができたって、浩平くんに言えばいいのよ。睦くんを連れて行ってさ」
「うわあ…、そういうのすっごい無理。ドラマとか漫画でよくあるよね?彼氏のふりしてもらって、そのうち恋愛に発展とか。睦くん相手じゃときめきもしない」
「別にときめけって言ってないんですけど」
あの睦くんが、そんなの引き受けるわけがない。
聞いているだけでも面倒なこの恋愛のもつれ話に、片足を突っ込むようなことは絶対に…。