ひと雫おちたなら

浮気って本来そういうものなのか?
したいとも思ったことがないからよく分からなかったのだが。

いよいよ別れを切り出した私に、浩平はそれこそ必死の抵抗を見せた。


嫌だ!嫌だ!俺は別れたくない!
俺が悪かった!もう浮気なんかしない!誓う!
ゆかりのそばにいたい!
ゆかりの隣いたい!
ゆかりともっといろんな思い出を……

─────割愛。


じゃあなんで浮気したんだって話。


そんなこんなで抵抗されて、なかなか別れられていなかったのだ。

じたばた別れたくないと騒ぐ彼氏を見て、どうして私はこの人を好きだったんだろうとぼんやり思った。
別れるのを少しでもためらった滑稽でみっともない私より、よっぽど浩平のほうがみじめだった。


「さっきの睦くんに、本当に協力してもらったら?」

「……ん?」

そばをすすりつつ、すでに汁のみになった器をコトンと置いた瑠美がにこりと笑う。

「新しい彼氏ができたって、浩平くんに言えばいいのよ。睦くんを連れて行ってさ」

「うわあ…、そういうのすっごい無理。ドラマとか漫画でよくあるよね?彼氏のふりしてもらって、そのうち恋愛に発展とか。睦くん相手じゃときめきもしない」

「別にときめけって言ってないんですけど」


あの睦くんが、そんなの引き受けるわけがない。
聞いているだけでも面倒なこの恋愛のもつれ話に、片足を突っ込むようなことは絶対に…。









< 21 / 62 >

この作品をシェア

pagetop