上司との同居は婚約破棄から

「自分……みたいに、ですか?」

 確かに高宮課長が誰かに甘えているところは想像できない。

「うん。俊哉くんも自分のことを放ったらかしにしてご飯なんて食べてなかったんじゃないかな。」

 高宮課長にも、そんな時期が………。

「それなのに誰にも泣き言1つ言わなくてね。
 だから、さ。
 藤花ちゃんのこと放っておけなかったのよ。」

 愛梨さんの優しい横顔を見つめ、それから私ももう一度、高宮課長を見つめた。

 ぶー垂れた顔を伊織課長へ向けている。

 笑えばいいのに……。
 そんなことをぼんやり思った。

「ほらほら。藤花ちゃん。
 愛梨姉さんの恋愛講座!」

 急に楽しそうに言い出して笑みをこぼす。

「いえ。恋愛はもう……いいです。」

 私ったら、せっかく楽しい雰囲気にしてくれたのを台無しにして!
 自分を心の中で叱ってみても、愛梨さんは酔っているせいか気にも留めてないみたいだ。

 それには少しだけ救われた。

「いい?
 自分を最初から全て曝け出さない方がいいの。
 恋愛も、仕事だってそうよ。」

 最初に全て出曝けさない……かぁ。
 全力投球しても追いつけない人はどうしたらいいのかなってトホホな感想が浮かぶ。

「俊哉くんとの同居も。
 どっちが主導権を握れるのか、最初が肝心よ。
 なんでも騙し合いに、化かし合いなんだから。」

 騙し合いに、化かし合い……かぁ。
 今の私にはおあつらえ向きだ。
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