キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
『・・・これはね。僕を全部、りっちゃんにあげるって約束の印だから』

帰ってくるなりスーツのままで、あたしをソファに座らせたミチルさんは。
そっと左手を取ると、流れるような動作で躊躇なく、自分の上着のポケットから取り出したものをあたしの指に嵌めた。

照明の光りにさえ淡い桜色の眩さを放つそれに、息を呑み。茫然と目を奪われてるあたしを引き寄せると頭の天辺に顔を埋め、思いを込めるように彼は言葉を重ねた。

『次は隆弘の前で誓うよ。・・・絶対に裏切れないって、りっちゃんなら分かってくれる筈だね』




来月の19日はお兄ちゃんの命日だ。
神サマなんかより、何ひとつ偽れない相手に証しを立てる。
ミチルさんの本気が伝わった。

「どんなカタチでも、ミチルさんがあたしを想ってくれて、あたしがミチルさんを好きだってことに変わりはないので」

視線を睦月さんに戻して、小さく笑ってみせる。

あたしとミチルさんの間に在るものが、ただの恋愛感情だったなら、もっと簡単だった。
欠いたら生きていけないと思えるほどの重みを、どう別け合っていいのかを。
お互いに、必死に手探ってた気がする。

これで間違ってないのか、迷いが吹っ切れたわけじゃない。
後悔はないって言ったミチルさんを信じるしか。前に進む方法がきっと無い。

「お兄ちゃんには、出来たら見守ってて欲しいなーって」

今度はおどけるように、あたしはわざと軽く言い。・・・掠めた苦さを飲み込んだ。


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