キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
『・・・リツ』

コール音は三回と鳴らず、耳に響いた穏やかなバリトンボイス。

「・・・・・・淳人さん」

何だか泣きそうになったのを、俯き加減にぐっと堪えた。
彼の声はいつも。あたしを揺るぎない力強さで抱き締めてくれる感じがして。そこに飛び込んでいきたくなる。どうしてか。

『やっとお前の声が聴けたな。菅谷もようやく鬼ごっこに飽きたか』

伝わってきた、不敵そうに笑んだ気配。
スマホを握る指に力が籠もり、詰めてた息を逃しながら訊いた。

「・・・ずっと追いかけてきたんですか?」

『リツを独り占めにさせておくのは、面白くないと言っただろう。俺には俺の、筋の通し方ってものがある。お前は志室の妹で、俺にとっても大事な女だ』

二言は無い。言葉の裏でもう一度、繰り返された。

『菅谷に、汐見(しおみ)で待つと伝えておけ。・・・また後でな』

最後まで、余裕の口調を崩さなかった彼。
返事を待たずに通話は切れ、あたしはブラックアウトした画面をぼんやり見つめる。

「淳人は、どこで待ってるの?」

隣りからした声に、ぎこちなく顔を上げた。
ミチルさんはこうなることを、予測していたみたいだった。
言われた通りに伝えると、アクセルを踏み込んだのか加速感が増す。

「りっちゃんが心配することなんて、何もないよ」

ウインカーと共にハンドルをゆっくりと切り、交差点を左折しながら彼は言った。

「結婚の報告もしたかったからね。淳人には」


その口許に柔らかく浮かんだ微笑みは。どこか裏腹に、鐵のような意思を孕んでる気がして。
左の薬指に嵌まる印を、上に重ねた指でぎゅっと握り締めるだけのあたしだった・・・・・・。




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